コラムColumn

こども時代の家事体験が社会を生き抜く力に

2020.07.08インタビュー

コロナ禍による外出自粛期間中、お子さんと一緒に片付けしたり掃除したり、料理を作ったり……とお手伝いしてもらった人も多いのではないでしょうか。「辰巳渚の家事塾」代表・淀川洋子さんは、「こどもが家事をすることは、将来自立した大人になるために大切なこと」と話します。家事ができると何がいいのか、具体的な実践方法を交えてお聞きしました。

福岡にある建設会社、イエノコト代表取締役として活躍するほか、家事塾代表理事、生活哲学学会理事など、数々の役職を兼任する淀川洋子さん。辰巳渚さんの著書『捨てる!技術』に感銘を受け、辰巳さんと一緒に家事塾を築き上げてきました

「辰巳渚の家事塾」とはどのような講座なのでしょうか。

―創設したのは、片付けブームの先駆けとなるミリオンセラー『捨てる!技術』(2000年・宝島社刊)の著者で、文筆家・生活哲学家として活動していた辰巳渚さんです。辰巳さんは、人が自立して生きる基本は「生活(暮らし)」であると考え、家事の大切さを広める活動をしてきました。やはり家のことが滞りなく回り、住まいがほどよく手入れされ、清潔な空気に満たされていることが、家族が安心して生きる基盤となり、外へ出ていく活力になると思うんです。

そして、その活動の柱となるのが「家事塾」です。生活の基本を学び直し、自分や家族の暮らしを整えるとともに、地域で「片付け講座」「子ども家事塾」などを開催できる家事セラピストを養成しています。実は私も、辰巳さんと出会って生き方が180度転換した1人で、最初に辰巳さんのもとで学んだ0期生。これまで300人近くが受講し、全国で家事セラピストとして活躍しています。残念ながら辰巳さんは2018年に急逝しましたが、私たち家事セラピストが遺志を受け継ぎ、活動を継続しています。

「子ども家事塾」も積極的に開催されているそうですね。

―家事塾では主に、家庭を持つ大人の女性が多く受講していますが、「三つ子の魂百まで」というように、家事においてもこども時代の経験が重要だと考え、こども向けの「子ども家事塾」も開催しています。そもそも私たちがこどもを育てる最終的な目標の1つに、「困難を自力で乗り越えられる、自立した大人になってほしい」という願いがあると思います。たとえばよちよち歩きのお子さんがいるご家庭でも、ぶつかりそうなものをあえて撤去せず、多少痛い思いをさせることが困難を乗り越える力につながると考える人もいるでしょう。家庭という小さな社会で訓練された力が、実社会に出たときに役に立つのです。

同様に家事も、自立して生きていくために必要な力です。もちろん家事ができなくても暮らしは回っていきますが、「どういう暮らしをしたいか」と自ら考え、それを実践していく力があれば、自分らしい暮らし方ができるわけです。特に小さいころから家事をしているこどもは、相手が何を要求しているかを考え、先回りして行動する力が備わっています。言われてからやるのでは、やらされている気持ちが抜けず、面倒や苦痛に感じてしまうこともあるでしょう。でも自分で考えて行動し、相手が喜んでくれたら、達成感にもつながりますよね。

必要に気づいてパッと動くには、やはりこどものころから体を動かして家事をする習慣が大切になってきます。たとえば、床にゴミが落ちているのを見たら、拾ってゴミ箱に捨てる。当たり前のことのようですが、気づいたときに反射的に体が動くかどうかは、習慣によるところも大きいと思います。こうした家庭での積み重ねにより、行動力のある大人になり、社会でも活躍できる。こんな自立した大人に成長してくれたら、親も一安心ですよね。

できたらたっぷり褒めてあげる。
その喜びが次へとつながります

「子ども家事塾」でのワンシーン。雑巾がけをしたり、バケツの水で雑巾を洗って絞ったり、昔ながらの方法で掃除をすることで、体を動かし家事を体験します

具体的には、どんなアプローチをするといいでしょうか。

―「子ども家事塾」のワークショップでは、ハタキをかけてホウキで掃き、雑巾がけをする、といった昔ながらの方法で家事を教えています。今は、掃除機など便利なものもありますが、まずは体を動かす体験をしてもらいたいので。あとは、1週間ぶんの「お手伝い計画表」を作ってもらい、親に言われなくても実践できるようになることを目標としています。ワークショップには主に、3歳から小学6年生ぐらいまでのこどもが参加していますが、おもしろいことに最年少の3歳の子が一番楽しそうに頑張るんですよね。家事を家事だと思っていないのか、みんなの真似をしたい、というのもあるのでしょう。そんな時期から始めておくと、家事にも自然に参加できるようになるかもしれません。

家事セラピストの中には、朝食前の15分間、家族全員が一斉に家事をする時間を設けているという人もいます。みんなでやっているので不公平感もなく、家族の一員であるという一体感も生まれるようです。また毎日ではなく、月1回や夏休みの1日など、家じゅうを大掃除する日を設けている人もいます。日常的な掃除では手が回らない窓ふきなども行い、終わったらみんなでお風呂に入ってスッキリ。出たら冷蔵庫には冷えたビールとスイカが待っているというご褒美つき、なんてエンターテインメント感覚でやるのもいいですね。

家にはどんな種類の家事があるかをそれぞれ考え、自分は何ができるかを一緒に考えていきます

こどもが家事に参加したくなる声がけのコツはありますか。

―家事を分担する場合、一方的に決めてしまうと押し付けられた形になってしまいますので、必ず親子会議を行ってください。こどもも小さいうちから話し合いに参加させることで家族の一員としての自覚が芽生え、自分で決めたことだから実践しようという責任感も育ちます。そしてきちんとできたら、たっぷり褒めてあげてください。たとえ床が水浸しでも、洗濯物がぐちゃぐちゃでも、間違っても「もっと上手にできないの」「お母さんがやったほうが早いわ」なんて言わないで(笑)。忙しいときなど、つい言ってしまいがちなセリフですが、こんなことを言われたら、こどもも自信を失くしてしまいます。

こどもが家事をする原動力って、実は親に喜んでもらうことなんですよね。ワークショップをやっていると、こどもたちは本当に親に喜ばれたいと思っているんだな、と感じることがあります。たとえば、こどもたちにおにぎりを握ってもらうとき。「お父さん、お母さんのために握ってあげてね」というと、目の色が変わって、すごいエネルギーがこもったおにぎりを握るんです。形はいびつでも、大好きな人に食べさせてあげたい、という気持ちが伝わってくるようなおにぎり。だからこそ、褒めてもらったときの喜びもひとしおで、また作ろう、また家事をしよう、というモチベーションにつながります。

家事を通して暮らしの基盤を築いていく

これから先、どんなことを伝えていきたいですか。

―今回の外出自粛で家にいる時間が長くなり、改めて暮らしを整えたいと、片付けをした人も多かったようですね。でも、ただ片付けただけでは、時間が経てばまた元に戻ってしまう。大切なのは、私たちがどんな空間でどんな暮らしをしたいか、というイメージを明確に持ち、しっかりした基盤を築くことだと思います。そのために必要なのが、「家事をする力」。たとえば空気清浄機ひとつとっても、ただ置いてあるだけでは、せっかくの性能が発揮しきれません。「家の空気をきれいにしたい」という明確な目的をもって正しく使い、適切な時期にお手入れやフィルター交換をするという〝家事″を行うからこそ、家族が暮らす空間を快適に保ってくれるのです。

私たちを取り巻く環境は、戦争や震災、今回の新型コロナなどにより、期せずして不安定になることもあります。それでも私たちは朝起きたらお腹が空いて、ご飯を食べますよね。どんなに環境が悪くても、家族の暮らしは続いていくんです。だからこそお母さん、お父さんにはぜひ、お子さんの太陽になっていただき、ポジティブな気持ちで暮らしを回していってほしい。私たちも今後家事塾だけでなく、学校や地域に出ていき、「家事とは、生きること」であることを広めていきたいと思っています。

家事塾 : http://kajijuku.com/

初級家事セラピスト養成講座 : http://kajijuku.com/kajitherapistkouza-basic/

Text by 田中 真紀子

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