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スウェーデンの「ラーゴム」に学ぶ、「ちょうどいい事は良い事」という生き方
2月18日にスウェーデン大使館で行われた「Beyond Organic(ビヨンド オーガニック)プレスカンファレンス」に参加した。これは「持続可能な食のエコシステムに関するスウェーデンの取り組みを紹介する」というもの。スウェーデンはヨーロッパの中でも有機野菜の消費が多く、健康と環境への負荷に対する意識が高い国なのだという。
このイベントでは、捨てられるはずだった食材の利用や、既存の食材の新たな使い方で、環境に優しく、おいしく、そして健康的な食を提案することで知られるスウェーデンの著名なシェフ ポール・スヴェンソン氏が登場し、フードロス削減に関する話を聞かせてくれた。セミナーの後に大使公邸で開かれたスヴェンソン氏が手がけた料理の試食会では、ラディッシュの葉と実と根を全て使った前菜、魚の頭をすりつぶして野菜とあわせた濃厚な前菜、豆で作ったまるでフォアグラのようにリッチな味わいのするパテなどが振る舞われた。
「環境に優しくしたい」「でもおいしいものも食べたい」「料理はクリエイティブでありたい」といった気持ちを合わせて、とてもちょうどよいバランスで作った料理だと感じた。
子どもも社会の一員として話し合いに参加する
ここで出会ったスウェーデン大使館の広報官、アダム・ベイェさんは、「スウェーデンには、ラーゴムという言葉があります。
日本語だと“ちょうどいい”という意味になります。すごく身近な言葉で日常的によく使われる言葉なんですよ」と教えてくれた。
ラーゴム(Lagom)の語源には、「規律を守る」など諸説ある。
スウェーデンでは元々、1つの料理をみんなで取り分けて食べていたため、自分の必要な分だけ取り、一人がたくさん取りすぎることがないようにという考えがあるという。そう考えると、「地球の限りある資源を無駄にしないようにすることで、望む人全てに食べものがちょうどよく行き渡るように」というサステナビリティの考え方は、スウェーデンの「ラーゴム」の考え方と通じるものがありそうだ。
「ラーゴム エ ベスト。つまり“ちょうどいい事は良い事”という価値観がスウェーデンにはあるんですよ。この考え方が日常生活、教育、人間関係、政治などに浸透しています。自分の意見を主張する時も冷静に話し合い、相手の意見と自分の意見のちょうどいいところを探って解決する方法を考えるんです」とベイェさん。
仕事だけでなく、家庭でも同様。三度の食事の時間はなるべく家族で会話の時間を持ち、親子で社会問題などを含むさまざま事柄をテーマにディスカッションすることも当たり前なのだという。なるほど。スウェーデンの子どもたちは、こうやって幼い頃から自分の意見を話し、そして相手の意見を聞くという経験を、ごく自然に積んでいくのだろう。それは、もちろん、家族揃って食事ができる時間に仕事などから帰宅できるという点がポイントなのだが。
「子どものことを社会の一員として考えています。もちろん成長の段階によりますが、子どもの考えを聞き話し合いをします。子どもには子どもの権利があります。例えば、遊ぶことも子どもの権利です。だから、小さいうちから学習塾に行かせる事はないですね。習い事は、スポーツや楽器など、学校では学べないことを学ぶ機会にします」とベイェさんは話す。
自分の学生時代を振り返ってみると、自分の考えを人に話して、誰かに聞いてもらい、肯定され、自分の考えを尊重しつつも誰かの意見と調整するといった経験は、少なかったように感じる。学生時代はなんとなく空気を読み、あまり自分を出さないように過ごしてきた気さえする。スウェーデンの高校生が、日本の同世代と交流し話し合いをすると、なかなか自分の意見を話さないため、日本の学生は幼いと感じるという話もうなずける。人に話を聞いてもらうことや、肯定される経験は、「自己肯定感」を育むのにも大事なポイントだと思う。
「日本人は一生懸命すぎる気がしますね。とても真面目だから。そして、子どもも大人も夜遅くまで塾や仕事などで忙しそうです」とベイェさん。たしかに、余裕がない。とはいえ、日本で過ごす私は、どちらかといえば、ほどほどよりも一生懸命やることや、“頑張る事が良い事”とされる価値観に触れてきた。
そこで、私は少し意地悪な質問をしてみた。ほどほどにやっていると、手を抜いているみたいに思われる事はないんですか、と。
「ないですねぇ」。即答である。
必要か必要でないかを見極めて、適度なバランスを見つける
「“ラーゴムなソーセージが良い”という言葉があるんですが、これはとてもスウェーデン人らしい言葉です。大きすぎてもよくないし、小さすぎてもよくない。つまり、なんでもやりすぎはよくない、という価値観です。スーパーなどのサービスは日本の方が格段に良いですよ。でも、やりすぎだなと感じる点も少なくない。真面目にやることも大事ですが、やりすぎないことも大事だと思います。一生懸命やりすぎると、ストレスが溜まってしまいませんか」(ベイェさん)。
確かに気持ちに余裕がなくてストレスも溜まりがち。家族の話を聞くときも、ちょっと頑張る必要がある。いろいろなこ事を一生懸命やりすぎて、疲れちゃって続かないこともある。では仕事をしたい、家をキレイにしたい、美味しいものを食べたい、家族との時間を大事にしたい–。いろいろなやりたい気持ちの、ちょうど良い加減を見つけるにはどうしたらいいだろう。
「スウェーデン人は合理的。例えば、18世紀のロココ美術をみると、ほかの国では細部まで豪華絢爛なのに対し、スウェーデンで作られた椅子は表は豪華だけど、裏側のみえない部分は飾りがないんです。必要なものとそうでないものを見極めて、適度なバランスをとるのが得意ともいえますね」(ベイェさん)。
そういえば、スウェーデンの空気清浄機メーカー「ブルーエア」の空気清浄機は、フィルターが汚れたら捨てて新しいフィルターに交換するというメンテナンス方法を採用している。最初聞いたときには、「掃除しないの?」とびっくりしたものだが、掃除の手間もいらないし、空気清浄機の性能は保てるし、とても合理的だ。しかも、一部のフィルターにはココナッツ由来の素材を採用し、環境にも配慮している。家電などの製品づくりにしても、スウェーデンらしさがあらわれているのだろう。
仕事、家事の分担、育児、人間関係など、生活のさまざまな場面で、適度な心地いいバランスのとれたやり方を意識することで、自分にかかるストレスやプレッシャーだけでなく、家族やまわりの人へのストレスやプレシャーを減らし、穏やかに過ごすことにもつながるのかもしれない。
スウェーデンと日本、どちらが良いというわけじゃない。ただ今は、「ラーゴム」を取り入れて、ほどよく過ごしていきたい気分だ。
Text by 伊森ちづる
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