コラムColumn

おうち時間に幸せをもたらす香りの上手な採り入れ方

2020.05.08エッセイ

新型コロナウイルスの影響で2月後半から在宅勤務に切り替わり、既に2ヶ月以上が経ちます。最初は通勤時間が浮いて嬉しかったのですが、それも束の間。働く場所が自宅になっただけで、やるべきことは変わらないはずなのに、生活が単調になりました。

オフィスでは同僚のデスクに行ってお喋りしたり、オフィス内を歩き回るだけでも息抜きになりますが、筆者の1LDKのマンションでは、リビングルームとベッドルームの行き来のみ。一日中一定の空気感の中で生活するだけでは、到底気持ちにメリハリがつきません。

場所の移動で気分転換ができない今、「香りのコミュニケーター」としても活動している筆者がオススメしているのは、複数の香りと複数の芳香アプリケーションを活用して、移動せずに環境を少し変えてみることです。今回は香りが気持ちに与える影響と、自宅での香りの上手な採り入れ方についてお伝えしたいと思います。

Project Felicia代表 Hiro Nakayama(なかやま ひろ)
香りのコミュニケーターとして、2008年よりニューヨークで活動開始。2017年、拠点を日本へ移す。国内外の企業に招かれ「香りの活用」を提案、海外の香料業界誌や美容専門誌などに記事・コンテンツを提供、豊かな感性と柔軟な発想力を育む「香育」活動として体験型香りのイベントを開催。五感を使ったアプローチが求められる今、「香り」の可能性を日々追求中。
https://www.project-felicia.com

空気中に漂う香りが感情をコントロールする

「香りで救われた。」

こういうと大袈裟と思う人もいるかもしれません。

筆者は過度のストレスで嗅覚が衰える体験をしています。人生の過渡期でもあり、知らず知らずにストレスを溜め込んでいたようです。その体験以来、「香り」を味方にする術 ― 意識して匂いを嗅ぐ習慣を身に付けました。

空気中に存在する香りの情報を伝達する私たちの嗅覚は、私たちが生きていくためにとても大切なものです。

私たちの脳には、「感じる脳」(大脳辺縁系)と「考える脳」(大脳新皮質)があります。「感じる脳」は記憶や感情に関わり、本能に基づく行動をコントロールしていますが、五感のうち嗅覚だけが、感覚器官が感じ取った情報を直接「感じる脳」に届けています。(一方、視覚、聴覚、味覚、触覚は思考や言語をコントロールする「考える脳」に届きます)。つまり、自分が認識するより早く、自分の心身の変化に気づくのです。

普段意識して呼吸をすることは少ないと思いますが、呼吸をしている限り、香りの情報はコンスタントに私たちに入ってきます。それはできれば、自分にとって心地良い香りの情報だといいですよね。

香りを変えてムードを切り替える

高級ホテルに入った瞬間に、外の空気と異なる匂いを嗅いだ経験はありませんか。背筋を伸ばし、新鮮な気持ちで足を踏み入れていく感覚を味わうこともあるでしょう。香りは空間(世界観)の変化を脳に伝えるキュー(合図)となるのです。

この香りがもたらす作用を取り入れると、同じ一日の中にも変化が生まれます。筆者の香りの一日を例にとると、朝はいつも通り支度して、最後に香水を身に着けます。現在のお気に入りはジンジャー、ベルガモット、レモン、ライムで調合されたフレッシュながらも温もりのあるスパイシーな香りのする、オリジンズの「ジンジャーエッセンス」です。

在宅勤務に切り替わる前は、その日の外出先、ご一緒する方々、洋服の色やスタイルと合わせたりしながら、機能性と気分を加味して手持ちの香水の中から選んでいました。身支度をするより先に、玄関ではお香を薫きます。これは匂いの効果だけではなく、浄化作用や邪気を払う意味も込めています。筆者にとっては朝一番の香りです。

いまや仕事部屋となったリビングルームではアロマストーンにエッセンシャルオイルを垂らします。午前中は、日本産のスギのオイルを数滴。芳香強度を高めたい時は、熱めのお湯を小皿に入れ、そこに数滴落とすとより香りを感じることができます。昼食後の在宅勤務は、オフィスにいるときより眠気に誘われますので、筆者はシャープなユズのオイルで脳に刺激を与えています。

また、夕方近くになると玄関で、緑茶やコーヒーの匂いが漂うお香を薫いています。最近ではワインの香りもあり、夕方から夜にかけ活躍します。筆者はお酒は飲まないのですが、アロマだけでも酔った気分でリラックスします。ほかにも飲料の香りのする芳香アプリケーションとしてはシャンパンの香りの香水もあり、こちらも時折、楽しんでいます。

そして一日の終わりには、消費財でも人気なボタニカル、つまりハーバル系の香りを小さな電気ディフューザーで薫き、自然に包まれながら眠りにつく。在宅勤務となってからは、自分に必要な環境やムードを生み出す香りを使い分け、今まで以上に香りの使い方に工夫を凝らしています。
 
香りは機能的な目的だけではなく、感情に訴える香りも科学的に証明はされてはいますが、筆者は自分が心地良いと感じた香りを生活に取り入れるのがいいと考えています。

季節感ある香りでこどもによい記憶を

近年、香りが記憶を蘇らせることは広く知られるようになり、注目を集め始めています。前述したように、香りの情報は直接感じる脳(大脳辺縁系)に届くからです。折角なので、これをうまく活用して、私たちが直面している現在の困難な時期を楽しいものに変える方法を伝授します。

もともと家で過ごす時間の長い小さなお子さんの楽しみは、一日一回の散歩だったかもしれません。ここ数ヶ月、保育園・幼稚園・小学校の校庭で走り回れず、ストレスも溜まりがち。過敏なお子さんは不安を感じているかもしれません。

特にこの時期は緑が芽吹く時期。こどもの脳は特に、印象深いものに左右されやすいと言われており、ストレスや不安を払拭するために尽力しているご両親もストレスを感じていると思います。せめて、季節感のある香りや自然を感じる香りを導入し、香りを嗅ぎながら外の情景を思い起こし気持ちを落ち着かせます。

例えば、道端の草や芝生をカットしたみどりの香りや、山をハイキングするときに芳る森林の香り―杉や檜のオイルなど、外出していれば、意識せず自然と薫ってきていたかもしれません。これらの香りは、エッセンシャルオイル、ブレンドオイル、好きな香水、お香など様々な芳香アプリケーションで存在します。

筆者が幼少期を過ごした家の前には茶畑があり、八十八夜というように5月は新茶を刈る匂いが立ち込めていました。お茶の木はちょうど幼児の背の高さくらいで、追いかけっこをしたり、かくれんぼをするのには最適でした。今でも、この時期の茶畑を彷彿される香りを嗅ぐと、瞑った目の前に茶畑が写り、当時の楽しかった思い出が蘇ります。

心地よい香りで日常生活に幸せを

最後にお伝えしたいこととして、感性は人それぞれです。

嗅覚から”心地よい”と感じる香りの刺激(情報)は幸せを感じるホルモンの分泌を促すと言われています。香りの心地よさを体験し、心地よく過ごす方法を知ることで、人に対する優しい気持ちや、日常のストレスを乗り越えていく力も育みます。私たちは心地よいと感じたとき、自分自身と、まわりと素直に向き合えます。

この外出自粛をきっかけに、ご自分やご家族にとって心地よい香りを見つけ、日常生活に「香り」を取り入れましょう。

Text by Hiro Nakayama