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空気がきれいな地の水はなぜおいしいのか-全国の名水地を訪れるミネラルウォーター会社社長に聞く

2022.03.02インタビュー
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都市部から離れ、車窓から見える緑の木々が増えてくる。やがて清流や湧水を発見すると、窓を開けたくなる。車内に流れ込む冷涼な空気をめいいっぱい吸い込むと、体の中が洗われていくような感覚がある。森林と清水周辺の、あの清々しい空気と都市のそれとは何が違うのだろうか。

全国の水源を訪れている本井晃一さんは「空気に含まれる化学物質が少ないです」と語る。本井さんは国産ミネラルウォーターを製造会社『マザーウォーター』代表で、150か所以上の日本全国各地の名水地を訪れている。

マザーウォーター株式会社
代表取締役 本井 晃一 さん

1973年神奈川県生まれ。大学卒業後、栗田工業株式会社で水処理エンジニアとして11年勤務。ボランティア活動として「国内天然水の効き水イベント」などを開催。全国各地の水源を巡り、環境問題や海外資本の買収などでの水源の危機的状況を知る。その後、2009年にマザーウォーター株式会社を創業。法人・個人向けラベリングウォーター事業を主軸に、水の専門知識を活かした品質向上や安定操業への協力、経営安定化へ寄与するコンサルティング業務も。2018年に北海道の水工場「株式会社ワッズ」を事業承継、2019年に大分県玖珠郡九重町にあった休止工場を再生し、自社工場として開設
https://www.motherwater.co.jp/ (外部リンク)

都市部の空気は様々な物質で飽和状態

都市部と水源がある森の空気は全く違う。その理由はなぜなのか。

「都市生活者の営みが飽和状態だからでしょう。狭いところに多くの人が密集し活動をしているので、大量の化学物質が空気中に飛散します。自動車などから出る粉じんなどもあり、空気が化学物質で曇ることも。都内の人口密集エリアでは、光化学スモッグ(※)が発生し、屋外に長くいると目がチカチカしたり、のどが痛くなったりする症状が出てくることもあります。

一方で、水源地は森の草木が光合成で酸素を生み出しており、人の営みもゆるやかです。それゆえに大気中の化学物質が都市部に比べて圧倒的に少ない。化学物質特有のにおいもありません。空気は木々のフィルターを通り、酸素と水分を含む。だからこそ吸った時に清々しさを感じるのでしょう」

※光化学スモッグ……空気中に排出された窒素酸化物と炭化水素が、太陽の強い紫外線を浴びて高濃度の光化学オキシダントに変質。白くモヤがかかったようになる状態になる。

奥多摩・小河内ダム

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都市から近い水源地と、遠く離れた水源地の水に違いはあるのだろうか。

「もちろんあります。例えば、東京都心から近い水源地は、都心から約65㎞離れた奥多摩にある小河内ダム。標高530mの山の中にある多摩川上流域を水源とする集水地で、流れ込む水は美しく空気がとても澄んでいます。しかし、ダムの水は緑色に濁っているのです。これは水の流動性が低いことに加え植物プランクトンが大量に発生しているからなんですね。中でも、問題なのはアオコと呼ばれる現象です。これは、ラン藻やシアノバクテリアが大量発生し、水面が緑色になるのです。これが発生するとカビ臭と墨汁を混ぜたようなにおいになることも。アオコは水質低下に直結し、その改善のために多額の費用もかかります。

私は九州や北海道、北陸など様々な水源地に行きますが、都市から遠く離れた水源地にそのような現象をみることはほとんどありません。ほとんどのダムもため池も水が澄み、とても気持ちがいいですよ」

この、植物プランクトンの大量発生の原因のひとつは、都市から流れる空気に含まれる化学物質だという。

「水と環境の専門家である、蔵治光一郎先生(東京大学)を奥多摩までお招きし現地を歩きながら水源の勉強会をして頂いたことがあります。化学物質は、人間の営みが少ない奥多摩にも空気に乗って運ばれてきます。そこに雨が降ると、雨の粒に化学物質が着いて、森や水源地に落ちます。特に窒素酸化物はアオコの栄養源となるだけでなく、その他も水質に悪影響を及ぼします。

私たちにとって、水の循環というと、海の水が蒸発し、雨が山に降る……というイメージがありますが、そこには空気の循環も含まれているのです。都市部から離れるほど、清らかな水源地であると感じます。私たちの大分工場は豊かな森に囲まれており、温泉も水もこんこんと湧き続けています。

これは余談ですが、東京の自宅でお風呂に入り、息を吸うと塩素のような匂いを感じます。水源地近くの宿泊施設で湯船につかると、無臭なんですね。そういうところにも環境の差が表れていると感じます」

参考:アオコってなに?(環境省)
https://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/gaiyou/pdf/aokobook120606.pdf

空気と水は密接に関わっている

「都市部の空気には、目に見えない化学物質や汚れが多く含まれていると感じます。人間が取り入れる化学物質は、食べ物や水ではなく、空気からが最も多いと言われています。だから、空気清浄機は必需品ですね。自宅のみならず、オフィスにも設置しています。

これは水にも同じことが言えます。かつては水道水を飲んでいましたが、今は浄水器を通した水や、ミネラルウォーターを選ぶ家庭がほとんどでしょう。都市生活でフィルターを通した空気と水は、嗜好品ではなく、日用品になっていると感じます」

空気や水、自然が人間にもたらす恵み。それは一朝一夕にできるものではない。

「私たちマザーウォーターは、貴重な水資源が現在、そして未来の人々へ受け継いでいくための活動を行っています。主力事業は、ミネラルウォーターの製造です。これで、全国各地の名水を流通させ、日本が水源地のミネラルウォーターのニーズを開拓。これが地域雇用の創出に結びついていくと考えています。4月からは大分工場で福祉関連の団体の方を採用し働く場を作ることになりました。また北海道夕張市や森林系環境保全団体(more treesや国土緑化推進機構)に寄付を行ったり、森林保全活動に水を協賛支給しており、今後もこうした活動を継続していくつもりです」

マザーウォーター株式会社大分九重工場

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Text by 前川 亜紀
ブル―エア空気清浄機

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編集・ライター
前川 亜紀

1977年東京都生まれ。大学在学中よりライターとして活動。週刊誌、女性誌、ビジネス誌などで、企画・編集・執筆をしている。