コラムColumn

親子でドーム観戦した野球作家があらためて考える プロ野球にとっての空気の重要性

2020.08.31エッセイ

写真:報知新聞/アフロ
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プロ野球がはじまったのに、毎日空気が重い。どうにもカラッとしない。
2カ月半遅れで開幕したプロ野球も当初の無観客試合から、7月10日に人数制限つきでようやくお客さんを入れ始め、8月1日から収容人数50%での開催が予定されていたものの、コロナ感染の再拡大を受けて大幅に延期。同時期には選手やスタッフからも感染者が出てしまうなど、プロ野球界は盛夏を迎えて、再びモヤモヤとした空気が蔓延し始めている。


距離はマストでジャンプも叫びも飲酒も禁止!
コロナ禍に球場が講じる観戦対策とは

そんな不安も球場の中に入ってしまえば一時は忘れられる。
球場の感染対策はどこもしっかりやっていて、観客同士のソーシャルディスタンスを保つのは当たり前として、飛沫感染を防ぐために応援団は入らない。トランペットは轟かないし、応援歌も歌わない。
そこが幕張(編集部注:ロッテマリーンズの本拠地。ジャンプしながらの応援スタイルは有名)であろうと、9回に横浜DeNAベイスターズの山﨑康晃が登板しようと、ジャンプはご法度。お酒も販売せず、手洗い推奨、点が入れば心の中でヨシとつぶやき、野球の神様に感謝する。

応援がないので打球音や豪速球がミットを叩く音、デッドボールを口汚い言葉で凄む広島ベンチや、キャッチャーが構えたコースを客が教える声などなど、はじめてのコロナ禍における野球観戦は、言い方を選ばなければ新鮮で貴重な体験が満載であったともいえよう。



コロナ以前の巨人軍を応援するファンたちがひしめくスタンド。人気球団だけに当然ソーシャルディスタンスは取られておらず、5万5000人満員御礼の客席は人人人である

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有観客初戦の7月10日は、人呼んで「絶対に叫んではいけないプロ野球観戦」のはじまりだった。

甲子園球場では初回横浜DeNAベイスターズの梶谷隆幸、阪神タイガース近本光司の両チーム先頭バッターホームラン。京セラドームではオリックス・バッファローズのアデルリン・ロドリゲスの起死回生サヨナラ3ラン。福岡PayPayドームでは、福岡ソフトバンクホークスの主砲柳田悠岐の豪快すぎるサヨナラホームランと、「叫ぶな」と咎められるには殺生すぎる試合が連発した。野球において「大声を出さない」ことは、寸止め以上に難儀な技であった。


“フタ”のあるドーム球場は空気対策が最重要!
東京ドームは100億円掛けて1.5倍換気能力アップ

それでも12球団ともに創意工夫を凝らして、このコロナ時代のプロ野球をなんとか実のあるものにできないものかと考える。
最重要課題はもちろん空気だ。
ただでさえ興奮冷めやらぬ観客たちが3密で賑わうスタジアム内の空気を、キレイに安全に保ち続けるための対策である。

日本のプロ野球団12チームのうち、半分がドーム球場を本拠地にしている。今年は人以上にスケジュールが過密になっているので、万が一雨で中止になれば、後々地獄のロードが待っている。そういう点ではドーム球場は有利とも思えるが、やはり天井で“フタ”をしてある分、観客としては空気の密閉度が当然気になってくる。その観点からいくと、西武ライオンズの本拠地、屋根をかぶせただけの“運動会の役員テントスタイル”を貫くメットライフドームは、ある意味“ニューノーマル時代の理想型”なのかもしれない。



西武ライオンズの本拠地であるメットライフドームは、ドームと言いながら、外壁は360度空いていて、プロ野球ファンからは冬寒くて夏暑いなどと酷評もされるが、今となってはニューノーマルなドームである

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さて、そんな状況下で12球団で一番最後となる7月28日に本拠地へ観客を迎え入れたのが、東京ドームの読売巨人軍だった。
試合開催から遡ること約1週間。巨人軍の今村司球団社長が、空気対策について異例の記者会見を行う。

東京ドームでは100億円をかけて改修し、従来の1.5倍まで換気をアップさせて通気を良くすること。さらにドーム内のすべての客席は試合終了後、約60人のスタッフで10時間以上消毒作業を行うなどの対応策について語った。



東京ドームは言わずと知れた読売巨人軍の本拠地。今回7/28に12球団では最後となる形で有観客試合が行われた

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プロ野球ファンとして「東京ドームの大改修で、換気機能は1.5倍になる」こと自体は大歓迎だ。これなら親子でも安心して野球観戦ができる。

一方で、横浜DeNAファンの筆者としては、ちょっと驚いたことがある。
今村球団社長が会見上で、「東京ドームで風を感じながら、『プリーズブリーズ(風)』で我が巨人軍も風に乗り、ペナントレースを突っ走っていきたい」と、自ら“風”を強調したことだ。
かつて巨人軍に東京ドームでホームランが出れば、『巨人が攻撃する時だけ、東京ドームはセンター側に向かって追い風を起こしている』と“ドームラン”疑惑がまことしやかに出ていたことは、球界で有名すぎる話。
しかもそれを軽やかに“プリーズブリーズミー”とビートルズも真っ青のノリで語るのだから。しかも実際、巨人軍はこの風に乗り、変則ペナントレースの方も調子に乗って、原稿執筆時点で首位をひた走っているのだから、横浜DeNAベイスターズファンの筆者としては気持ち複雑だ。


東京ドームで息子を連れてプロ野球観戦!
安心できる環境もやっぱり大声で叫びたい!?

ならば、その対策はどれほどのものかと、かねてより野球観戦に行きたいと駄々をこねていた7歳の息子を連れて、東京ドームに野球観戦へと出かけてみた。
元々東京ドームの換気システムは評判が高く、常に大量の新鮮な外気の取り込みと排出を行っているため、換気性が非常に高いと言われているが、やはりこどもを連れて行くとなると、正直この時期は心配になるのが親心というもの。
実際にドーム球場内に入ると、コンコースには大型の送風機が設置されていた。従来の1.5倍と謳うだけのことはあって、確かに空気が動いているのがほのかに感じられる。冷房も利いているので、この肌で感じる冷気は、なんとなく空気が“澄んでいる感”に自動変換され、安心感が自然に高まる。
観戦した試合は、我が横浜DeNAベイスターズが4対2で勝利。この試合前まで1勝6敗と巨人軍に対してボロボロに負けていて、今年は勝てないんじゃないかという空気が流れていたが、この日は先発投手大貫晋一が好投。そして殊勲打を放った嶺井博希、倉本寿彦の活躍で、東京ドーム内の空気はがらっと変わった。いやはや、7回攻撃時の連続タイムリーヒットにより逆転した時は、無意識のうちに声が出てしまったほど。すばらしい。
試合中は打球音やピッチャーが投げたボールがミットに収まる音などがよく聞こえ、席の間隔も広くて、贅沢な草野球を見ているようで悪くない。しかし巨人軍の攻撃中、あらかじめ録音してあった応援のBGMを流されると、ヘンな空気が流れ始め、ヘンなエラーや四球が飛び出すように。やはり、野球は空気の読み合い。流れの掴み合いのスポーツであると、応援の音が少ないだけで強く感じる。

試合の空気をつぶさに肌で感じられる今の東京ドームは、従来の野球ファンにも新しいプロ野球観戦の楽しみ方を確実に教えてくれている。
そして久しぶりのプロ野球観戦ができた息子も、安心できる空気環境のなかで過ごせたこと自体はとても嬉しそうだった。
だが、プロ野球ファンとしては当然まだまだ初心者。本当であればスター選手たちの一挙手一投足そのものに、本来であれば無邪気に声援を送りたいし、賑やかな球場という楽しい場所に遊びにいったという点においては、この緊張感が高い球場では真の満足感を得られなかったようにも見えた。実は息子は野球そのものよりも、球場の雰囲気が好きだったのだろう。

 コロナ禍でも安心して観られるようにと、プロ野球関係者たちが一丸となって努力をしてくれていることは、本当にありがたいし、ひたすらに敬意を払いたい。ただ、それでも、重苦しい空気がドームの天井より低いところでのしかかってきているように親子で感じたのは事実。早く本来の「球場ならではの空気」が思い切り楽しめるときが来て欲しいと切に願う。

Profile
作家・村瀬秀信

1975年神奈川県生まれ。プロ野球をテーマに雑誌などへ寄稿。幼少期からの大洋ホエールズ・横浜DeNAベイスターズファン。著書に『4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ涙の球団史』(双葉社)『止めたバットでツーベース』(双葉社)、『ドラフト最下位』(KADOKAWA)等がある。

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