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空気の読めないこどもが世界を変える ー前編ー

2020.04.17インタビュー

「空気が読めないこども」という言葉は「困ったこども」という意味で使われることがあります。みんながシーンとしてる中、「ジャーン!」とシンバルを鳴らす子がいたら困っちゃうなあという考え方。しかし、空気を読めず不登校になってしまうこどもこそ社会を活性化する鍵なのではないかという考え方が、いま日本で広がりはじめています。

既存の高等教育で対応が難しかったこどもたちに学習機会を提供してきた「異才発掘プロジェクトROCKET」もその1つ。日本財団とともにROCKETを運営する東京大学先端科学技術研究センターの福本理恵さんは、「不登校の子が増えているのは良い流れ」だと話します。教育、ひいては社会の風通しを良くしようという新しい試みについて聞きました。

東京大学先端科学技術研究センター 福本理恵さん。

教科書も正しい答えもない授業

写真はイメージです

ROCKETは2014年開始。どんなプログラムをやってきたんでしょう。

――最初のプログラムは「解剖して食す」というものでした。ヒイカとかヤリイカとか、イカを5種類くらい用意して「今日はこれを食べます」と伝える。イカ墨のパエリアをつくるんだけれども、墨袋をやぶらずに取り出してパエリアを作ってくださいと。それを教科書なし、時間割なし、時間制限なしでやるんです。

こどもたちも変わってますが授業も相当変わってますね。

――そうなんです。こどもたちは変わっているとはいえやっぱり学校を意識して、「教科書ないの?」と言い出したりする。かと思えば、直感力の高い子が何も言ってないのに魚のさばき方の本を持ってきていたりする。すぐパニックになる子は、慎重にやればいいのにグサッとナイフを入れてしまって、墨がどろどろに出てきて「ギャーッ」となる。隣では生物に興味のある子がイカの目玉だけを取り出して水晶体の研究をしはじめる。過敏症のある子はパニックになった子の声を聞いて「アーッ!」と言っている。カオスでした。

(笑)もはや学級崩壊状態。

――学校にいると、一人そういう子がいるだけで「授業妨害だ」ということで授業が止まってしまうんですが、それを続けるのがROCKETなんです。続けていくと、パニックを起こしながらも自分のやり方を見つけていくんですよね。プログラムには教科書もなければ正しい答えもなく、自分のやり方を試行錯誤して、失敗しながらも自分が納得いく方法を見つけて一皿のパエリアを作るんです。その一皿に驚くほどバリエーションが違うものができてくるんです。それが結局私たちのやりたい教育なんですよ。人生を作ることにマニュアルはないじゃないですか。自分で選んだ人生を送った結果、人とは違った自分だけの人生を生きていける。そういうコンセプトを体感してもらえる授業にしています。

インドのエネルギーを考える旅

インドの街並み

最近はどんなプログラムをやっているんですか?

――「原料・製品・エネルギーを考える旅に出る」というタイトルだけ伝えてプログラムをやったことがありましたね。30人くらいから応募があり、みんな一所懸命に「なぜ行きたいか」を書いてくるんですが、学校教育の成果なのか、だいたいのこどもは再生可能エネルギーの話をするんですね。「フランス大国は〜」なんて。その中から6人を選抜して、成田空港に来てもらう。そこで渡されるのがムンバイ行きのチケットなんです。

フランスかと思ったらなぜかインドに。

――ともかくインドに行って原料と製品とエネルギーを探す旅ですよ。夜に入ってムンバイにつきアーメダバードに入る。カースト制度がかなり厳しい中、実は低階層の人たちから草の根のイノベーションが起きている現場に足を運ぶ。インドはすごく発達しているところがあり、富裕層がいるところは日本よりギラギラしている。歩くたびに価値観が変わっていくわけです。

初めは超高級ホテルに泊まってインドはこんなに裕福なんだという意外性に触れ、固定観念をぶち壊す。ちょっとずつ南下して、ケーララというポルトガルやイギリスに入植されたプランテーションが残っているような地域に行くと、そこにはまだ西洋人がバケーションに行く施設が残っている。彼らは権力を駆使して現地の人たちを使ってゴムとかパイナップルとか原料になるものを作っていたんだと学ぶ。

貧困地域に入ってガンジス川の流域に行くと、人々が日常の沐浴をする傍らで火葬をしていたりする。そういうところで日本と生死観を比べながら考える時間を持つわけですね。

再エネとは全然違うところに来ました。

――エネルギープラントなんてどこを見てもないわけですけれども、「どうしたの、迷ってるの?」と小さい子に案内されてついていくと最後に「50ルピーくれ」と言われたり、ゴミかと思ったら古い靴を直して売り物にしている人がいたり。土ぼこりとクラクションと喧騒の中に立たされながらそういう光景を見て気づくのは、「この人たちのエネルギーはすごい」ということなんです。

そこで「これはいったい何が原料なのか?」という議論が起きてくる。貧困地域を歩く中で感じたこと、宗教が違う人たちが入ってくる中で折り合いをつけながら生きていること、そのことで主張をしあわないといけないことが原動力になっているんじゃないかと考えはじめる。日本みたいに秩序立っている国だと、「主張しなくても法に則ればいい」ということになったりする。豊かであるからこそ、必死に生きなければいけない状況が生まれづらかったりする。日本とインドを比べることで、人の生きるエネルギーというのは、実は不便なところ、整っていないところから生まれるのかもしれないという考えが起こってくるわけです。

人間を考えることが、エネルギーについて考えることにつながるということですね。

――ROCKETの旅はこういう情動をゆさぶられるセレンディピティな体験(予想外のところから価値のあるものを見つけること)こそ意味があるという考え方なんです。これが原点になってインパクトのある考えの転換が起きたり、ショックを受けることが原点になって問いが生まれてきたりする。そこを作っていくことがROCKETの学びなんです。カオスな状況を生み出して、まさに生きる哲学を立てていくことそのものなんですね。

<後半に続く>

Text by 河合克三

異才発掘プロジェクトROCKET : https://rocket.tokyo/ROCKET