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北欧在住日本人Youtuber発! 日本とこんなにも違う、スウェーデンの子育て事情

2023.11.24インタビュー

充実した社会保障制度に支えられるスウェーデンは福祉国家として有名ですが、教育先進国でもあります。そこで、日本とは大きく異なるスウェーデンの子育て事情をご紹介! お話しいただいたのは、以前こちらの記事でスウェーデンのペット事情についてインタビューさせていただいたマホさんとともにYouTubeチャンネル「Nord-Labo北欧研究室」を運営する、ストックホルム在住歴17年の“ヨウコさん”ことダールマン容子さんです。

スウェーデン人の夫とともに8歳と13歳のお子さんたちを育てるヨウコさんに、たっぷりお聞かせいただきました。

ダールマン容子(だーるまん ようこ)さん
東京都出身。明治学院大学英文科卒業後、家具店勤務、広告代理店営業、古美術商などを経て、日本語教師として出会ったスウェーデン人との結婚を機に、2006年にストックホルムへ移住。在住歴17年。2007年北欧雑貨の輸出販売会社を起業、2018年には北欧雑貨ショップ「ソピバ北欧」をスタート。現在は雑貨業はじめ通訳、翻訳、コーディネートなど日本とスウェーデンに関わる何でも屋業。北欧在住なのに南国好きで趣味はウクレレと旅行。中1、小2の母。2019年コロナをきっかけにYoutube「Nord-Labo北欧研究室」をスタート。『幸せの秘密を見つけよう』というコンセプトのもと、子育て、介護、医療という難しいトピックから、ゆる~い食レポまでさまざまなトピックを配信中、2023年11月現在登録者数は5万人を超える。
Youtube:https://www.youtube.com/@nordlabo/

産後1日で退院!出産直後から「ふたりの子育て」がスタート

−−まず、スウェーデンの出産事情について教えてください。

ヨウコさん/特別な事情がなければ、出産はパートナーも立ち会います。日本では産後5日間程入院し、その間も赤ちゃんのお世話の仕方を教えてくれたり、手厚くケアしてくれたりすると思いますが、スウェーデンは結構スパルタです。生んだ途端に「はい、ふたりで頑張ってね!」という感じで新生児を任され、特に問題がなければ産後1日で退院します。オムツ替えや授乳の仕方もよくわからない中、パートナーとの子育てがスタートするので、最初はふたりで一緒に調べたり、病院の人に聞いたりと、手探り状態。もちろん定期的に保健師さんが訪問して、赤ちゃんの成長を確認したり、相談に乗ったりしてくれるので安心ですが、やはり一緒に暮らすパートナーの存在はとても大きいです。特に出産直後は本当にフラフラな状態ですから、赤ちゃんのお世話も、食事や家事も、パートナーがやるしかありません。

男性育休も当たり前! 90%超の男性が育休を取得

−厚生労働省の調査によると、令和4年度の日本の男性の育休の取得率は17.13%でした。スウェーデンの育休はどうですか?

ヨウコさん/スウェーデンではこども一人につき、8歳までの間に最長480日の育休を取得できます。そのうち90日ずつが父親、母親それぞれに割り振られていて、相手に代わって取得することはできませんが、300日分はどう分けても自由なんです。よくあるのが、生まれてから1年間は女性が取得し、その後女性が職場復帰してからの半年間を男性が取得して、1歳半で保育園に入れるというパターン。男性の育休の取得率は9割を超えていて、もし取得しなければ、逆に「どうして取らないの?」と聞かれてしまうほど一般的です。父親が仕事を休んで何ヵ月間も朝から晩まで赤ちゃんのお世話をして家事を回すという状況は、日本ではまだめずらしいかもしれませんね。

子育てそのものも、子育てのしんどさも男女でシェア!

−−父親も母親も同じように子育てすることで、日本とは違う親子の関係性がありそうです。

ヨウコさん/そうですね。こどもはどちらの親とも同等の信頼関係を築いていると思います。何かあったときに、パパにも言えるし、ママにも言える。父親も母親も、保育園のことや学校のこと、こどもの友達関係のこともよくわかっていますからね。
保育園にお迎えに行くと、よくパパやママが集まって立ち話をしているんです。すると、パパもママもみんな口々に「子育てってしんどい! 早く仕事に戻りたい」って、結構愚痴を言っているんです。おたがいに育休を取って朝から晩まで家事や育児をしているからこそ、その大変さに心から共感し合えているのでしょうね。夫婦間で、子育ての話もよくします。教育方針の違いから、バトルに発展することもしばしばです(笑)。

−−スウェーデンの男性は、総じてイクメンなんでしょうか。

ヨウコさん/子育てや家事をするという意味では、みんなイクメンと言えると思います。ただ、みんな上手かと言えば、それは人それぞれ。みんな得意・不得意があるし、誰もがよろこんで子育てをしていると言えばそうではなくて、前述の通り、育休中にブーブー愚痴を言っていたりします(笑)。でも、スウェーデンでは、パパもママも子育ては自分の責任であるし、むしろそれが権利であるとすら思っています。何しろ子育ては、一人の人間の成長に関われるという壮大で素晴らしいプロジェクトですから。だからたとえ愚痴を言ったとしても、子育てそのものをないがしろにすることはありません。

教育先進国ならでは! スウェーデンで子育てのしやすさを感じる瞬間

−日本と比較して、スウェーデンの教育制度は整っていると感じるのはどんなときですか。

ヨウコさん/1つ目に、必ず保育園に入れるという点ですね。保育園は自治体ごとに運営しているのですが、産後1年が経って希望があったら、必ず保育園を用意しなくてはいけないということが法律で決まっているのです。1歳になれば、自動的に地域の保育園に入れるという安心感は大きいですね。2つ目に、大学まで教育費は無償という点です。これは、公立だけでなく私立の学校もです。所得制限もありません。さらに、学校で使う教科書やワークブックなどの教材、ノートや鉛筆に消しゴム、ハサミなどもすべて学校に用意されているので、こどもたちは何も持っていかなくていいんです。それこそ、空のリュックで登校しています。明日の時間割をチェックする必要もなく、親も子もラクですね。3つ目に、こどもが病気になったときに仕事を休むと、国からお金をもらえるということ。これには驚きましたけれど、ありがたい制度です。

自分がやりたいことを自分で見つけ、やりたい気持ちを尊重する教育

−−日本の教育とスウェーデンの教育との違いについてもお聞きしたいです。

ヨウコさん/スウェーデンでは、本人のやりたいことを大事にするという考え方が大前提としてあります。例えば保育園でも、先生が「今日はこれをやりましょう」というような提案はほとんどしません。こどもたちが夢中になっていることをそのままやらせるとか、発展させてやらせるんです。自分から「これがしたい!」と言えない子に対しては、いくつかのチョイスを与えて自分で選べるようサポートします。もちろん命の危険であったり、ほかの子に危害を加えることがあったりしたら止めますけれど、そうでなければ大人は口出しせず、こどもに自由にやらせることを大切にしています。私は昭和の日本に生まれ育った人間なので、親や先生から「あれやりなさい、これやりなさい」と言われてきました。だから、スウェーデンに来て「自由にやっていいよ」と言われたり「何をやりたいの?」と問われたりすると、ちょっと困ってしまいます。ほかにも、日本の社会では、気力とか根性が求められるというか、多くの日本人は、努力を重ねて、とことんまでがんばり抜きますよね。スウェーデンでは、「できなかったらしょうがない」と考えます。例えば宿題が終わらなかったとしても、「それはその子に合った宿題の量ではなかった」という考え方をするので、「がんばってやってきなさい」ということにはならないのです。

家庭でも対話を通じて自分と他者への理解を深める

−−家庭では、どのようにこどもと向き合いますか?

ヨウコさん/家庭でもこどもの意見を尊重します。みんな同じじゃなくていいという考えが根本にあるので、上から押さえつけるようなことはしません。例えばこれからどこかへ出かけるときに、こどもが「行きたくない」と言うとしますよね。そんなときでも無理矢理に大人の言うことを聞かせるのではなく、どうして行きたくないのか問いかけます。そんなふうにこどもの話に耳を傾けては対話を重ねていくので、かなり時間がかかります。
夕食は家族そろって食卓を囲み、就寝まで家族の時間を過ごします。そこでも対話を大切にしているので、スウェーデンのこどもたちは、暮らしの中で自然と自己理解や相互理解を深めていきます。こうした親子関係が要因なのかどうかはわかリませんが、スウェーデンのこどもには、親に反発したり、暴言を吐いたりするような反抗期は少ないように思います。

澄んだ空気ときれいな空に恵まれた環境下での子育て

−−日本に帰国されたり、海外に行かれた際に、改めてスウェーデンの空気のおいしさを実感することはありますか?
ヨウコさん/そうですね。東京からこちらに戻ると、深呼吸したくなりますね。ストックホルム中央駅から電車で2、30分行ったら自然保護地区が広がる環境で子育てできることは、本当にありがたいことだと思っています。
スウェーデンのこどもたちは週末のたびに郊外の森で家族と過ごします。夏は森でキャンプしたり、湖で泳いだり。湖が凍る冬は天然のリンクでスケートを楽しみます。日本のようにゲームセンターやテーマパークなどのエンターテインメントが少ないので、「週末はまた森でソーセージ焼こうか」と、強制的に森……みたいな部分はありますけれど(笑)。年頃の子はそういうことがだんだん退屈に感じるようになったりもするのですが、日常の暮らしの中に青々と生い茂る森とクリアな空、そして澄んだ空気があって、そこで家族のんびりと過ごせることは、やはりこの上ない幸せだと感じています。

森と湖に囲まれた壮大な自然環境の中で子育てできるスウェーデン。夫婦二人三脚の子育ては、充実した制度の整備だけでなく、スウェーデンのパパやママに「こどもは個人として尊重されるべき」という価値観や「こどもの権利を守る」という観点が根づいているからこそ実現できたように感じます。
こどもと対話するー。家族の時間が増える年末年始は、このテーマでお子さんと向き合ってみてはいかがでしょうか。

Text by Neem Tree 羽田朋美
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編集者
羽田 朋美

出版社時代はローティーン誌やママ雑誌の編集長を歴任。独立後、編集プロダクション「Neem Tree」を設立。ママ向け媒体を中心に、雑誌、ムック、カタログ、企業のオウンドメディアやLP、広告制作など幅広く制作。近年は書籍の編集も手がける。趣味はキャンプと家族旅で、タイ、スリランカ、ボルネオ島など、自然豊かな土地を巡るのが好き。中1、小3、小2の3兄弟の母。
Neem Tree:https://www.neemtree.jp(外部リンク)