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現代人は呼吸の量が多すぎる!?こどもも大人もマスターしたい正しい呼吸エクササイズ

2021.11.26インタビュー

呼吸と健康が関係することはよく知られている。呼吸の改善でメンタルや体調不良が改善できるという。だが、正しい呼吸はどのようなものか、具体的にどうすれば良いのかを知っている人は多くないだろう。
そこで今回は、東京・南青山と渋谷に展開するパーソナルジム「ビーストイック(b{stoic)」代表の鈴木孝佳さんに、呼吸の大切さと正しく呼吸を改善する具体的なエクササイズを教えていただいた。

b{stoic代表トレーナー
鈴木 孝佳さん

脳神経学/機能解剖学/運動生理学/栄養学に基づき、アスリートやアーティストをはじめ述べ8,000人の身体を改善。2016年アリゾナ州に渡り約50時間の人体解剖研修を受講し企業向け講演、専門家向けセミナー書籍執筆、メディアの監修にも携わる。著書に、「全人類、背中を丸めるだけでいい」「ねこ背を10秒で治して人生を変える!」「疲れない体を脳からつくる ボディハック」など。

「b{stoic(ビーストイック)」https://b-stoic.com/(外部リンク)


現代人に多い「呼吸のしすぎ」

鈴木さんが代表を務める「ビーストイック(b{stoic)」は、筋肉を鍛えることを主な目的とする一般的なジムとは違い、運動や栄養、鍼灸トリートメントによって体本来の機能を取り戻すことをコンセプトにしている。利用者には経営者も多く、体調を整えることで仕事の生産性を高めることが目的で通う人も多いという。

「健康と呼吸は密接な関係があります。呼吸の改善なくして体を好調に導くのは難しいといってもいいでしょう。人間は37兆個の細胞でできていますが、細胞のエネルギー元は、糖と酸素。つまり、呼吸が効率よく行われていることが大事です。さらに、呼吸は自律神経系に意識的にアプローチできる唯一の手段でもあります。1日10分でも呼吸を意識してトレーニングすれば、自律神経系が変わり、様々な体の不調改善が期待できます」

鈴木さんによれば、現代人の呼吸の問題は、「呼吸量が多すぎる」ことだという。

必要以上に空気を吸っており、この傾向は年々高まっているというデータもあるそうだ。一見、呼吸量が多ければ、それだけ酸素を多く取り込めて健康に良さそうにも思えるが、事実は逆だと鈴木さんは説明する。

「酸素は水に溶けることがないので、血流中の赤血球にあるヘモグロビンと結びつく必要があります。いわば、ヘモグロビンは酸素のタクシーの代わりとなり、肺から細胞まで送り届けます。血流にのり、目的の細胞の近くまで行った時、酸素が下車する際には二酸化炭素も必要となります。しかし、呼吸量が多いと血液中の二酸化炭素が減少し、結果的に酸素が細胞に届けにくい状況が起こってしまうのです」

さらに、呼吸の量が増えると、自律神経のひとつである交感神経が優位になる。極端に言うと、安静にしている時でも、運動をしているときのような興奮状態になり、それが日常的に続くことで体に不調が生じてしまう。つまり、我々のイメージとは逆に、健康のためには呼吸の量を減らしていくことが必要というのだ。


呼吸を評価するテスト

呼吸の量を減らすといっても、そう簡単ではない。問題となるのが、二酸化炭素への感度だ。

「人体は体内の二酸化炭素の量を主にモニタリングしていて、一定以上増えると脳が呼吸を行うよう指令を出します。多くの人は、二酸化炭素への感度が高くなっている。つまり、ちょっと呼吸の回数を減らすと、すぐに吸いたくなってしまい、呼吸の回数が増えてしまうのです」

これを修正するには、呼吸のトレーニングで呼吸量を落としていく必要がある。二酸化炭素への感度を下げることで、血液中の二酸化炭素量を増やし、その結果として酸素が正常に細胞まで届き、健康へとつながるというわけだ。

ビーストイックでは、まず利用者に次のような呼吸をテストを行う。これは二酸化炭素への感度や呼吸の量を調べるものだ。

①息を鼻から軽く吸い、軽く吐く
②息を止める
③「息を吸いたい」と思うまでの時間を計測する
④これを3回繰り返して平均の数値を求める

ポイントは、「苦しくなるまで」ではなく、「息を吸いたい」と思うまでの時間を計測すること。すぐに「吸いたい」と感じるのは、それだけ二酸化炭素への感度が高いことを意味する。鈴木さんによれば、体の不調を抱えている人ほどタイムが短く、10秒を切る人も多いという。また、同じ人でも体調が悪い時ほど短くなる傾向があり、自分自身のコンディションチェックにも使えるそうだ。

後で紹介するエクササイズによって、この時間を延ばしていくが可能だ。ゴールの目安は40秒。現状が10秒だとすれば、一週間に3秒ずつ増やしていくことで、3ヶ月ほどで目標の40秒に到達できる。


こどもの時の呼吸は将来に影響する

当然のことながら、こどもにとっても呼吸は重要だ。いや、大人よりも大事と言っていい。正しく呼吸できているか見る目安が、口呼吸か鼻呼吸かである。口呼吸では、ウイルスや菌が直接喉に入ってしまい、病気の原因となるが、発育中のこどもにはさらに大きな問題がある。

「口呼吸によって歯並びが悪くなることも知られています。鼻呼吸ができるかどうかでその子の将来に少なからず影響する言っても過言ではないでしょう」

なぜ、口呼吸だと歯並びが悪くなるのか。舌が口の中でどの位置にあるかが関係する。

正しく鼻呼吸できている人は、舌全体が天井に触れている。逆に、天井についていない、舌が前歯に触れているようであれば、口呼吸の可能性が高い。

「歯並びは、舌が歯を押す力と、唇や頬が歯を押す力のバランスできれいに整っていきます。口呼吸で口が開いてしまっていると、唇、頬からの圧がなくなり、舌が前歯を前に押し出してしまい、歯並びが悪くなってしまう。さらに、口の中の天井が高くなることで、舌が天井につけにくくなり、大人になってからも口呼吸が続いてしまう可能性があります」

舌の位置が下がってしまっているこどもには、以下の特徴が見られるという。

・いつも口をポカンと開けている
・発音や滑舌が悪い
・クチャクチャ音を立てて食べる

こどもの口呼吸には、鼻炎や口内環境など様々な原因が考えられるので、気になるようなら歯科や耳鼻科に診てもらうことをオススメする。


スマホの見過ぎが呼吸を浅くする

呼吸には姿勢も大きく影響する。
姿勢に大きく影響を与えているのが、スマホの見過ぎだ。
「小さな画面を近くで見ようとすると、眼球が固定され、首が前に出る姿勢になってしまい、自然と口が開いてしまう。さらに姿勢が悪いと、あばらが開いた状態になり、横隔膜が上下に動ける幅が狭くなります。横隔膜が正常に機能しないと、首や肩の筋肉を使って呼吸をしようとするので、結果として肩や首が凝ってしまうのです」

最近は肩凝りの子どもが増えているが、スマホも原因のひとつと言えそうだ。これを改善するには、運動が効果的だと鈴木さんは言う。

「運動によって体の動きに多様性を与えてあげると、脳が刺激され、自然な正しい姿勢に修正されていきます。また、呼吸筋を鍛えるのに有効なのが、風船をふくらますトレーニングです。プロのアスリートも使っていますが、これにより姿勢も良くなります。あおむけやよつばいなど、いろいろな姿勢で風船をふくらませてみてください。お子さんにとっては遊びにもなるトレーニングです」

立ったときの悪い姿勢(左)。骨盤が前に出て、頭・首も前に突き出されている。あばらが開き、横隔膜も正常に機能しない。正しい姿勢(右)では、外くるぶしの少し前と、膝、股関節の出っ張り、肩、耳の穴が一直線になっている。

横隔膜が正しく機能するには、あばらが閉じた状態が必要。そのためにも姿勢が重要だという。


呼吸のエクササイズ

最後に、鈴木さんに教えてもらった細胞に酸素を届けるためのエクササイズを紹介しよう。

①椅子に座り軽く背中を丸める
②5秒間かけて息を吐く(口からでも鼻からでも構わない)
③5秒間息を止める
④5秒間かけて鼻から息を吸う
⑤これを繰り返す(1回10分を目安)

呼吸のエクササイズのポーズ。背中を丸めて楽な姿勢をとることがポイントだ

軽く背中を丸めるのには、理由がある。

「このポーズをとることで、息がしっかりと吐き出しやすくなります。また、胸の後ろ、胸椎から腰椎にかけて交感神経が通っており、背中を丸めてあげると交感神経への過剰な刺激が少なくなり、よりリラックスできるのです」

5秒ずつだと1分間に4回の呼吸となる。呼吸量が多い人は普段1分間に20回近くも呼吸をしているが、このエクササイズを繰り返すことで、二酸化炭素への感度が落ち、ゆっくりと呼吸できるようになる。

5秒ずつの呼吸になれたら、この時間を延ばしていく。10秒ずつできるようになることがゴールだ。冒頭で紹介したテストの時間が伸びていれば効果が現れている証拠だ。理想的な呼吸は、静かでゆっくりとした呼吸。目の前の人に呼吸の音が聞こえるようでは失格。自分が呼吸しているのかわからないような状態が理想だという。

時間や場所に関係なく、自分の意識次第でできる呼吸のトレーニング。
ぜひ取り入れてみてはいかがだろう。

Text by 小口覺
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ライター・コラムニスト
小口 覺

SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱(日経クロストレンドにて連載中)。著書に「ちょいバカ戦略 −意識低い系マーケティングのすすめ−」(新潮新書)。