コラムColumn
香りの専門家が教える 暑い夏に涼感をもたらす香りの力
ミントなどのさわやかな香りを嗅ぐと、スーッと体の中まで涼しくなるような感覚が味わえることがあります。毎日うだるような暑さが続きますが、どのような香りをどのように取り入れると、夏をより爽やかに過ごすことができるのか、香りのコミュニケーターとして活動するなかやま ひろさんに教えていただきました。
今年の夏は、昨年にもまして記録を更新する勢いで気温が高くなりそうです。在宅中、エアコンつけっぱなしにしていても、外の熱気を感じます。先日、東京が38-9度の週末、八ヶ岳の友人宅を訪問しました。
標高1200mでしたが昼間の外気は32度。数字を見てしまうと暑さを感じてしまいますが、目に映る爽やかな緑、森林に囲まれている空気の匂い、感覚で気持ちは変わるのだと実感してきたばかりです。これが体感温度なのでしょう。
日本には「涼をとる」ということわざがあります。暑さを和らげるための、いわば昔からの知恵、ライフハックです。打ち水やすだれなどがそうです。そして今年も工夫された新しいライフハックが増えるわけです。これを香りで実現できないか。
前述した体感温度ですが、身体の温度に関する感覚を数値的に表そうとしたものを言いますが、この感覚には気温、湿度、風速といった環境条件と代謝量や着衣量といった人体条件が作用すると考えられています。さらに私たち個人の健康状態、性別、年齢、慣れなども考慮すべき要素だと言います。個人的には、そこに今まで培われていた感性が加わるのではと思っています。
香りの情報
香りには、私たちの嗅覚には、マインドセットを変える働きがあります。例えば、近年の香りの傾向としては香水調やボタニカル調が主流となりましたが、もともと、お掃除用洗剤などにはレモンなどシトラス系の香りが使用されていました。お掃除後のシトラスの香りが、その場が綺麗になったというキュー(情報)を鼻から伝えてくれます。
ペパーミントを始めミント系の香りはスーッとする爽やかさは同様の効果を私たちに授けてくれます。夏になると、「涼感アロマ」としてオイルだけでなく、ミント系の香りを活用した雑貨を店頭で見かけますね。実際に、ペパーミントの香りを嗅ぐと「体感温度が4度下がる」という実証実験データ(2005年、資生堂発表)があります。主成分のメントールは私たちの冷感受容体に作用するため涼しく感じるとわかっています。
私は数年前から日本産ミントとして北海道の北見薄荷の結晶を持ち歩いています。香りを活用したグッズよりも香りを強く感じること、液体のように揮発しない気がします。実験したら異なるかもしれませんが、自分の感覚に頼った結果、私にはこの薄荷の結晶が自分に合います。
その他、レモンやライム、グレープフルーツ、ユーカリなどの香りも同様に清涼感を感じる効果があるとされます。
香りの記憶
今では多くの方が香りを嗅ぐと記憶がよみがえることを認知していたり、「プルースト効果」なんて用語まで知っていたりするのですが、記憶に残る夏の涼しさを感じる場所を思い起こす香りの起用はいかがでしょうか。
始めにお伝えしましたが、避暑地八ヶ岳での週末リトリート中は温度計を目にするまで「暑い」とは感じませんでした。林間学校など自然に囲まれた場所は涼しいとされます。自分の周りの環境を簡単に変えられたらいいのですが、そうでない時はその場所の香りを嗅ぐと良いかもしれません。
もうひとつはシーブリーズ。暑い日に海に入り楽しい時間を過ごした後の海風は肌に心地よいです。夏にシーブリーズの香水を身につけている方が通り過ぎると爽やかな気持ちになります。
夏の風物詩
風鈴の音を耳にすると涼しく感じることはありませんか。竹林の笹の葉が風で触れ合う音に風を感じませんか。その竹林の匂い、笹の葉の匂い、竹林に広がる苔の匂い、それらを嗅ぐことで、音の記憶が耳に伝わり、自分がその場にいる気分にさせてくれます。このようなコンセプトアロマの力で想像力を掻き立たせ、自分のマインドを刺激するのです。
私にとっては蚊取り線香もマインドを刺激する夏の風物詩の香りです。今では、マンション暮らしですが、実家にいたときは夏の夕方となると、父が火をつける渦巻蚊取り線香が我が家の夏の風物詩のひとつでした。今でもその匂いが漂うと、鈴虫の鳴き声や縁側の夜風が蘇ってきます。
日本古来の夏の香り
平安時代の人々は夏の香りとして蓮の花をイメージした荷葉というお香の調香を創りだしました。昔ながらの日本の夏の香りを聞きながら、煙を目で追い、ゆったりと自分に向き合う時間を過ごすのも、暑さを忘れる術かもしれません。
エアコンは身体に良くないとはいえ、私たちが直面している灼熱の夏には欠かせません。温度を調節しつつ、アロマの力で、自分の感性をフルに活用して、自分なりの涼をとる方法を試して、この夏を乗り切りましょう。
Text by なかやま ひろ
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香りのコミュニケーター。Project Felicia 代表。2008 年よりニューヨークで活動開始。2017年、拠点を日本へ移す。2021年 自社ブランド「Bridge and Blend」より源氏物語の世界観を体感するお香「Six in Sense」を発売開始。現某 IT 企業にて会社員をしながら五感を使ったアプローチが求められる今、「香り」の可能性を日々追求中。
https://www.bridgeandblend.com/(外部リンク)
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