コラムColumn

世界の街を走ってわかった ランニングに影響を与える空気の質

2021.10.25エッセイ

長距離を走るランニングは有酸素運動の代表格といえる。それだけに走る場所の空気の質をランナーはとても気にする。筆者はこれまでに100回以上のロードレースを走り、コロナ禍以前は月に1~2回程度海外渡航して大都市から自然に囲まれたリゾート地まで、世界各地を走ってきた。その時に感じたことを紹介したいと思う。

 
高地で走るのはやっぱり辛い!?



コロラド州の高級スキーリゾートであるベイル。ベースの標高が2500mと酸素濃度が低く、少し走っただけで息が切れるなど、平地のランとはかなり勝手が違った

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高山病という言葉を聞いたことがあるだろう。高地に行くほど空気が薄くなり、酸素濃度が低くなることで様々な症状が現れることを言う。頭痛やめまい、食欲低下、全身の倦怠感、吐き気等々、本当に辛いものである。一般的には標高2500mくらいから発生すると言われているが、体調や状況によっては、それよりも低い高度でも発生することがある。

2012年にアメリカのコロラド州の高級スキーリゾートであるベイルで行われた10Kmのトレイルランニングレースに出場したが、アップダウンが凄かったのとベイルの街はベース標高が2500mで、そこから山を登るコースは酸素濃度がどんどん低くなり、平地と違って少し動いただけで息が切れ、思うように脚が動かないし、心臓もいつもよりバクバクしていた。これが初の山を走るレースだったこともあり、1時間41分18秒でようやくゴール。ほぼ毎日のランニングを欠かさない生活をし、42.195Kmのフルマラソンを何度も完走していたので、「10Kmくらい楽勝でしょ!?」と軽く考えていたが、生まれて初めての高地でのランはかなりタフな経験となった。

 
都会のど真ん中なのに空気がキレイ!



都会のど真ん中とは思えないニューヨークのセントラルパーク。走るには最高の環境が揃っており、空気もキレイだった。

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これまで13度ニューヨークの街を訪れているが、6度目の滞在となった2010年以降、セントラルパークを走ることが恒例行事となっている。ご存じの通りセントラルパークは、ニューヨーク市民の憩いの場であり、最もポピュラーなランニングスポットとなっている。南北4Km、東西800m、341ヘクタールの面積の大規模な都市型公園は、走っていると湖や山道と間違うようなアップダウンのある個所もあり、最初に走った時は「群馬のゲレンデに向かう山道にそっくりだなぁ…」と思ったものである。一番南の59丁目沿いには観光用の馬車が並び、馬糞の臭いがして、今ではこれを嗅ぐと「セントラルパークに来たぞ!」と思うようになった。

ほぼ毎日の日課として6Kmを走っているが、ここに来るとついつい距離が伸びて、10Km~15Kmほど走ってしまう。公園内の空気はキレイで、走り終わったあとに芝生で寝転がっていると、「本当にここはニューヨークのど真ん中なのか?」と思ってしまうほど、気持ちのいい空間である。ロンドンのハイドパークにおいても同様のことを感じたが、ランナーにとって、このような空気のキレイな環境は本当に有難いものである。ちなみにロンドンの1人あたりの公園面積は東京の約4.6倍、ニューヨークのそれは東京の3.2倍である。

 
意外とクリーンな東京の空気



‘50年代や’60年代のクラシックカーはデザインに趣があり雰囲気は最高だが、排ガス規制が全くなされていないので、ハバナの空気はかなり汚れていた。

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ニューヨークやロンドンと比べると公園面積は満足なレベルにない東京だが、都内には皇居や神宮外苑、代々木公園、駒沢公園、隅田川沿いetc.いくつかのランニングスポットが点在しており、あらゆるレベルのランナーを充分に楽しませる環境として問題ないレベルにある。そして上海、北京、香港、バンコク、シンガポールのようなアジアの都市から訪れたランナーたちにとっては、東京のランニング環境は、自国と比較すると憧れのレベルにある。

自分の知り合いの北京のランナーは、「ハイアット リージェンシーかヒルトンに泊まって、新宿中央公園を朝走るのが最高だね。北京では屋外を走る気にならないから」と語るなど、彼らからすると、東京の空気は意外にもクリーンで走りやすいという。白いスモッグに覆われ、100m先の視界もままならない北京の街の状況を新聞やテレビで見たことのある人もいるだろう。東京もかつては公害のイメージがあったが、それは昔の話。1950年代以降、ボイラー等のばい煙規制やディーゼル車規制を始めとした様々な公害対策により、大都市における大気のクリーン度は世界でも誇れるレベルにある。

これまで訪れた街で最も空気が汚れていると感じたのは、意外かもしれないがキューバのハバナ。その理由は排ガス規制とは無縁の‘50年代や’60年代のクラシックカーが現役で活躍しており、その排ガスたるや強烈で、嗅いだ瞬間に走る気が失せたものである。

Text by 南井正弘
ブル―エア空気清浄機

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フリージャーナリスト / 「Runners Pulse」編集長
南井正弘

1966年愛知県西尾市生まれ。スポーツシューズブランドのプロダクト担当として10年勤務後ライターに転身。「フイナム」「価格.comマガジン」「モノマガジン」「SHOES MASTER」を始めとした雑誌やウェブ媒体においてスポーツシューズ、スポーツアパレル、ドレスシューズに関する記事を中心に執筆している。主な著書に「スニーカースタイル」「NIKE AIR BOOK」などがある。「楽しく走る!」をモットーに、ほぼ毎日走るファンランナー。ベストタイムはフルマラソンが3時間52分00秒、ハーフマラソンが1時間38分55秒。