コラムColumn

コロナ禍で注目される加湿器と空気清浄機 ダイニチとブルーエアはなぜ単機能で勝負するのか

2021.03.03インタビュー

昨年1月から日本で広がり始めた新型コロナウイルス感染症が終息しないまま、1年を過ぎた。目に見えないウイルスの存在に不安を感じながら、日々感染対策を心掛けている人も多いだろう。空調家電においても空気中の有害物質を取り除く空気清浄機、ウイルスの飛散や感染を抑えるとされる加湿器に注目が集まり、2020年は前年を大きく上回る販売台数となっている。

ところで空気清浄機と加湿器が必要となれば、加湿機能付き空気清浄機を使えば一石二鳥では? と考える人も多いのではないだろうか。実際、日本の空気清浄機市場においては、加湿機能や除湿機能も搭載した複合機が7~8割を占めているという。そんななか、あくまで空気清浄機は空気清浄機、加湿器は加湿器、と単機能にこだわって製造を続けるメーカーがある。スウェーデンの空気清浄機専業メーカー・ブルーエア、そして新潟の石油ファンヒーターおよび加湿器メーカー・ダイニチ工業だ。
両社はなぜ単機能にこだわり続けるのか。今回、同じ志を持つ両社をオンラインでつなぎ、単機能ならではのメリットやコロナ禍におけるメーカーとしての使命についてそれぞれの思いを語っていただいた。

ダイニチ工業株式会社:
開発本部 第一開発部 部長 堀江淳氏
管理本部 経営企画部 広報室 室長 小出和広氏
https://www.dainichi-net.co.jp/

1964年に新潟県三条市で誕生した家庭用空調機器メーカー。製造拠点を新潟に置き、開発から企画、設計、製造、検査までを一貫して国内で行う。主力製品は石油ファンヒーターと加湿器で、いずれも業界で高いシェアを誇っている。さらに加湿器の累計生産台数は昨年10月に300万台を突破している。

ブルーエア社:
ブルーエア日本正規総代理店 セールス・オンデマンド株式会社
マーケティング本部 マネージャー 荒井加奈子氏
https://www.blueair.jp/

1996年に創業したスウェーデン・ストックホルムに本社を置く空気清浄機専業メーカー。米国家電製品協会の定める事実上の世界基準「CADR値(クリーンエア供給率)」で世界最高水準を取得した清浄力の空気清浄機を販売する。現在、世界60か国以上で愛用されており、政府機関や病院、ホテル、一流企業で選ばれている。日本市場には2010年に参入。



モダンな空間にも美しくなじむダイニチの加湿器LXシリーズ

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広い空間に対応するパワフルさ、デザイン性の高さという共通点

――まずはお互いの製品についてどのような印象をお持ちか、お聞かせいただけますか。

ダイニチ・堀江氏:
私は加湿器の開発を当初より担当していますが、その他の空調機器の性能評価をすることも多く、ブルーエアさんの製品も購入して試用させていただいたことがあります。大変パワフルな動力で、まさに空気清浄という機能を突き詰めておられるな、と感じました。これだけパワフルなのに佇まいが美しく、デザインが洗練されているんですよね。

ブルーエア・荒井氏:
ありがとうございます。ブルーエアの創業者はもともと、自身のお子さんが喘息持ちだったことから、こどもにはきれいな空気を吸わせてあげたいとの思いで「世界一の空気清浄機を作る」と立ち上げたメーカーなんです。もちろんデザインにも力を入れていて、社内のデザイナーのほか外部のパートナーとも組み、研ぎ澄まされたデザインと北欧らしいカラーバリエーション、さらには直感的に分かりやすい操作性など、機能美にこだわった製品を展開しています。

ダイニチ・堀江氏:
店頭でもブルーエアさんの空気清浄機は、ほかのメーカーの製品と比べてハッと目を引くものがあり、日本製とは全然違うんですよね。そこが弊社の苦手とするところでして(笑)、見習いたいと思っているところです。

ブルーエア・荒井氏:
デザインはもちろんですが、ボディにスチールを採用していることも印象を左右するポイントとしては大きいかもしれません。スチールはコストが高いため、多くの空気清浄機はプラスチックを採用しているのですが、スチールは耐久性や静音性が高く、結果として堅牢な重厚感が生まれるんです。
実は私も今、ダイニチさんの加湿器を愛用させていただいているのですが、短時間であっという間に加湿できてお手入れもしやすく、デザインもスタイリッシュ。ブルーエアとの共通点を感じることも多いです。


ダイニチ、ブルーエアがあくまで単機能にこだわる理由とは



ブルーエアの空気清浄機Protect 7770iはスリムでスタイリッシュなデザインながら、適用床面積~70畳というパワフルさを兼ね備える

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―ダイニチ様、ブルーエア様ともに単機能に特化しているのが特徴ですが、単機能にこだわる理由を教えてください。

ダイニチ・堀江氏:
加湿機能付き空気清浄機などの複合機は、1台で複数の機能をこなせるという点では、私も肯定的に捉えています。その一方で、単独でないがゆえにそれぞれの最大限の能力を出しきれないという弱点もありますね。弊社でも加湿機能付き空気清浄機の調査を行ってきましたが、やはり空気清浄機は空気清浄機、加湿器は加湿器として単独で稼働したほうが圧倒的に高い能力を発揮できる、というのが基礎開発の中で感じているところです。
特に加湿器を単機能にすることで得られるメリットとして大きいのは、サイズやデザインの自由度が高いこと。加湿機能付き空気清浄機にすると、選択肢は3パターン前後に限られますが、弊社の加湿器は畳数や性能に応じて26種類用意しています。最大適用床面積が67畳とパワフルなのも、単機能だからこそ実現した性能だと思います。

ブルーエア・荒井氏:
私たちもまさに同意見ですね。やはり1台に加湿機能、空気清浄機能、除湿機能……と増やせば増やすほど、1つ1つの性能が落ちてしまいます。その点、私たちブルーエアの空気清浄機も、最大70畳まで対応できるモデルを用意しています。
日本では住宅事情から複合機が選ばれる傾向にあると思いますが、四季があり湿度が目まぐるしく変化する風土の中で、加湿器や除湿機を使う期間は限られている。それを1台で賄おうとすれば、結局は“帯に短し襷に長し“になってしまうと思うんです。それに加湿機能付き空気清浄機の適用畳数は、空気清浄機単独運転では○畳、加湿機能を併用すると○畳、と異なるのも分かりにくいなと思ってしまいます。あと複合機はお手入れの工程も多く頻繁に行わなければいけないのも大変ですよね。

ダイニチ・堀江氏:
お手入れの点でいえば、加湿器は単体であっても気を遣わなければいけません。せっかく健康的な環境を作るために使っているのに、適切なお手入れをしなかったがゆえに汚れた水で加湿して室内環境を汚染することになっては本末転倒ですから。弊社の加湿器も、基本機能である加湿能力と静音性を実現したことで、多くの皆様にご支持いただいていますが、さらに「衛生的に使いやすい」と感じていただくためには、このお手入れ問題を軽減しなければならない、というのが課題になっていました。
そこで2019年に、使い捨ての「カンタン取替えトレイカバー」を搭載した「LXシリーズ」を開発しました。ハイブリッド式加湿器の中にあるフィルターは使っていくうちに汚れますが、これは洗うか買い替えていただくことで清潔に保つことができます。しかし水が溜まるトレイ部分は消耗部品ではありませんので、汚れたら洗剤で洗っていただくしかありません。



LXシリーズには「カンタン取替えトレイカバー」を採用することで、お手入れの手間を大幅に軽減

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「ならばトレイ部分も取り替えできるようにしたらいいんじゃないか」と逆転の発想で考案したのが、このトレイカバーです。トレイの内側に使い捨てトレイカバーを設置し、汚れたらそのトレイカバーを捨てて新しいものと交換すればいいわけです。もちろん従来通りトレイを洗うなら、トレイカバーは不要ですし、どのような使い方をするかはお客様が自由に選べます。

ブルーエア・荒井氏:
やはりお手入れをシンプルにするのも、長く快適に使い続けていただくためには重要なことですよね。空気清浄機の中には、長期間フィルターを交換しなくてよいとするモデルも多いですが、やはり清浄性能の低下は避けられませんし、日常的に掃除機でホコリを吸ったり、パーツをつけおき洗いする手間もあります。それを知らずに購入したお客様としては「そんなに手間かかるとは思わなかった」とがっかりするのではないでしょうか。
堀江さんもおっしゃられたように、せっかく空気をきれいにしようと思って購入したのに、適切なお手入れをしなかったために逆に空気が汚れてしまうことがあっては本末転倒ですし、それによって「空気清浄機は意味がない」と思われてしまうのでは、私たちも残念です。その点、私たちブルーエアの空気清浄機も、お手入れは基本的に半年~1年に1回フィルターを交換するだけ。汚れたものは捨てて新しいものに交換するのが衛生的で合理的だし確実な方法です。



Protect 7000シリーズのフィルターには「RFIDチップ」を搭載。フィルターの使用頻度など様々な状況からフィルターの適切な交換時期を判断してお知らせする

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コロナ禍で感じた、空調機器メーカーとしての使命感

―空気清浄機、加湿器ともに、このコロナ禍において急に注目されることになったと思いますが、どのように受け止めておられますか。

ダイニチ・小出氏:
加湿自体の重要性は実はコロナ禍以前から、インフルエンザ予防に有効だと厚生労働省のホームページにも記載されていました。空気が乾燥すると気道の粘膜が荒れることでウイルスの侵入をブロックしきれず、体内に採りこんでしまうため加湿器などを使用して適度な湿度(50~60%)を保つことが有効と明記されており、やはり加湿器が有効だと私たちも発信を続けてきました。

それが昨年の1月以降、新型コロナウイルス感染症という見えない不安が世界中を覆ったことで、弊社としても「何かできることはないか」と模索していたところ、今度は首相官邸のホームページに、新型コロナウイルス感染症対策の1つとしてインフルエンザの予防策と同様に適度な湿度を保つことが有効であると記載されたんです。それを見た瞬間、私たちは「これは早く世の中に広めなければ」と、強い使命感を感じました。
その後、湿度によりウイルスを含む飛沫の飛散が抑えられることが科学的にも証明されたことで、加湿器への関心が一気に高まったわけですが、私たちとしても「一刻も早く製品をお届けして、少しでも不安から解放されてほしい」という思いから増産体制を組み、日々生産に励んでいるところです。需要に対してスピーディーに応えることも空調メーカーの使命ですから。



新潟県にあるダイニチの加湿器製造工場では一日も早くお客様に加湿器を届けるべく、日々製造が続けられている

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ブルーエア・荒井氏:
空気清浄機市場も同じく、コロナ禍で拡大しています。空気の汚れは目に見えないため、なかなか必要性を感じていただけないのが悩ましいところでしたが、新型コロナウイルス拡大によって、改めて空気の状態に気を留める人が増えたのでしょう。さらに私たちも昨年秋に、3年かけて開発してきた新モデル「Blueair Protect」を発表することができました。これは0.1㎛といわれるウイルスより小さい0.03㎛の微細粒子を除去することができます。さらに目に見えない空気の汚れが本体やスマートフォンから確認できることも、空気に対する不安を和らげる一助になるのでは、と考えています。

一方で懸念しているのが、この空気に対する不安を“不安産業”として利用されないか、ということです。私たちは空気清浄機専業メーカーとして長年、「こどもたちを汚れた空気から守りたい」との思いでものづくりをしてきましたが、このコロナ禍で新規参入してくるメーカーが急激に増えているんです。でも皆さんにはぜび宣伝や不確かな情報に惑わされず、ご自分の目で見極めていただいたうえで、信頼できる製品を購入していただきたいと思っています。

ダイニチ・堀江氏:
新規参入に関して言えば、加湿器業界にもかなり増えています。加湿器の方式には大きく分けて「超音波式」「スチーム式」「気化式」「ハイブリッド式」があるのですが、特に超音波式は仕組みが非常にシンプルなので、安価で新規参入しやすい。一方で加湿力が弱かったり、トレイのお手入れを怠ると水が汚れ、その汚れをそのまま空気中に放出してしまうことになるため、お手入れには特に気を遣う必要があります。
その点、弊社が製造しているハイブリッド式はパワフルなので広い空間に対応でき、水を吸い上げたフィルターにファンで風(または温風)を当てて水を蒸発させる仕組みであるため、水の汚れもフィルタ―である程度漉しとることができるので、汚れが放出されにくいメリットがあります。もちろんハイブリッド式もお手入れは必要です。高機能なぶん本体の価格は高くなりますが、なぜハイブリッド式が高いのか、メリットを丁寧に説明し、納得したうえで選んでいただきたいと考えています。

―最後に、今後のメーカーとしての展望をお聞かせいただけますでしょうか。

ブルーエア・荒井氏:
四半世紀続けてきた空気清浄機メーカーとして、引き続ききれいな空気の重要さを伝える啓発活動を続けていきたいと考えています。ブルーエアの根底にある思いは、創業者であるベント・リトリの言葉『人は誰でもきれいな空気の中で生活する権利がある』に集約されています。
その中でも私たちが守るべき存在は、小さいこどもたち。こどもは小さければ小さいほど、汚れた空気が脳や肺に与えるダメージが大きいと分かってきているんです。これまでも「CLEAN AIR FOR CHILDREN(こどもたちのためにきれいな空気を)」という活動を通し、保育園や小学校に空気清浄機を寄付させていただきましたが、今後も本コラム「こどもの空気研究所」で空気に関する情報を発信したり、社会貢献活動を通して、空気の大切さを伝えていきたいと思っています。



2019年12月に、100台の空気清浄機を渋谷区立の保育園・幼保一元化施設に寄贈

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ダイニチ・小出氏:
私たちもこのコロナ禍が一日も早く終息することを願いながら加湿器を製造し続けていますが、この先、インフルエンザや他のウイルス感染症が流行する可能性がないとは言い切れません。そういう意味で、今回ウイルス対策のひとつとして加湿が重要であることを広く認識していただけたのはよかったのではないかと思っています。今後も引き続き、私たちも加湿器の重要性を伝えつつ、性能をさらにブラッシュアップして、「ダイニチの加湿器なら安心」と言っていただけるような信頼を確立できるよう取り組んでいきたいと思っています。

Text by 田中 真紀子